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EU離脱【いーゆーりだつ】

★左右の対立を超えた上下の分裂


 イギリスで行われたEU離脱を問う国民投票(2016年6月23日)は、銃撃事件などの影響もあって、事前予測が二転三転する中、最終的には僅差で離脱が多数となりました。ただ、これで直ちにEU離脱となるわけではなく、2年の交渉期間を経て、残留交渉がまとまらなかった場合に、正式に離脱となります。


 二大政党制の基本構造の下で動いてきたイギリスでは、世論を二分するような問題は、左派:労働党と右派:保守党に分かれるのが普通でした。ところが、今回のEU離脱を巡っては、まず与党保守党の中から離脱論が起こり、それが左右の対立を超えて支持を急速に拡大させ、ちょうど、アメリカの大統領選予備選でも二大政党の有力候補を苦戦・敗退させた上下分裂と似た構造が現れる事態となりました


 こうした中、EU離脱の国民投票は選挙時の公約にも入っていたこともあって、身から出た錆とも言える離脱論の鎮静化を図るため、キャメロン首相は国民投票という強気のギャンブルに出たのでしたが、一敗地にまみれる結果となり、当然の責任論として辞意表明となりました。


 保守党の支持層は、残留派の富裕層と離脱派の低所得層に完全に上下分裂していましたが、労働党の支持層は、国際主義の理念を優先するかアンチ・グローバリズムの現実路線で行くかという、また別の論理でやはり上下に、ただし保守党よりは緩やかに分裂していました。ちなみに、保守党は上層がグローバリズム、下層が反移民で、左右の陣営はそれぞれ対角線的には正反対の対抗関係になり、極右の離脱派活動家が残留派の労働党下院議員を銃撃した事件も、この対立の構図に乗っています。


 また、土壇場に来て、残留派が終始優勢と伝えられてきたスコットランドで、残留派の票が予想ほど伸びなかった背景には、独立派の戦略的な投票行動も伺われています。スコットランド独立派は、独立してEUに加盟することが目標ですが、先立つ2014年の住民投票では、独立派は小差で敗北していました。ここで独立派には、わざとEU離脱に投票して離脱を全土通算で多数としつつ、住民の多数が支持するEU残留と抱き合わせという有利な形で、再度、独立の住民投票に挑むという戦略が浮上するわけです。実際、スコットランド国民党党首で自治政府首相のスタージョンは、スコットランドではEU残留派が多数だったことを強調しつつ、改めて住民投票を求めると表明しています。


 イギリスは、前身であるECの原加盟国でこそありませんでしたが、早期から加盟しており、域内大国として重要な地位を占めていました。そんなイギリスで離脱派が多数となったことは衝撃をもって受け止められました。しかし、21世紀に入って進んだEUの変質を考えると、それを必然としたメカニズムも見て取ることができます。



文・土屋彰久(政治学)