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続・EU離脱【ぞく・いーゆーりだつ】

★グローバリズムの要請がEUにもたらした変質


 イギリスは、元々、国内にEU懐疑派を多く抱え、ユーロへの参加も見送るなど、大陸諸国主導で進むEU統合に一線を画している面はありました。それでも経済的連携関係の強さから、非現実的と見られていた離脱でしたが、実際に多数の支持を得るに至ってみると、残留で固まっていたイギリス支配階級の想像を超えて、庶民を取り巻く事情は深刻化していたことが見えてきます。


 こうした、最底辺からのイギリス政治の地殻変動からは、21世紀に入って隆盛を誇ってきた右派路線の自家中毒という構造的要因が透けて見えてきます。これは、アメリカの大統領選でも、右派的傾向の強い共和党の候補者選びで、事前の観測では有力候補と見られていた主流派が、早々に敗退し脱落していったことと合わせて、いわゆる「アングロサクソン流」が限界に来たことのサインと見ることもできるかもしれません。


 統一通貨ユーロの導入など、EUの統合が急速に進んだ時期は、加盟国の大多数が左派政権だった20世紀末期と重なります。これは、ヨーロッパの先進国=高開発国だけで、充実した社会資本を生かした高福祉体制を維持して行こうという、一種の「引きこもりブロック経済」を志向した側面がありました。これにいい顔をしなかったのがアメリカでした。


 アメリカ流の資本主義原理で世界を市場化するグローバリズムを進める上で、このようなEUの方向性は、市場アクセスが制限されるという意味と、短期利益に振り回されない安定した経済運営のお手本になってしまうという、主として二つの理由で許されざるものでした。そこで、アメリカはこの目論見をぶち壊すべく、EU内の右派勢力にテコ入れを強め、右派政権を誕生させ、こうした国々を尖兵としてEUブロックの基盤を掘り崩していきました。


 アメリカのこの戦略に引きずられ、EUは旧東欧諸国を迎え入れる東方拡大に動きました。これは、グローバリズム的、つまり経済成長至上主義の考え方では、旧東欧の低開発国を圏内に取り入れることで、先進国の余剰資金を活用した開発の余地が拡大するため、経済成長にはプラスです。そのため、マクロの経済指標は上向くのですが、同時に格差を抱え込むために、「高開発国高福祉クラブ」の基盤は崩れます。こうして、一時は右派政権一色になったことともあいまって、EUは逆に域内プチ・グローバリズムの道具となってしまいました。


 イギリスは、かつて「ゆりかごから墓場まで」と言われた高福祉国でした。しかし、グローバリズムの尖兵として、国内経済保護の権利として認められた労働力移入の制限も行わず、無規制で旧東欧からの労働力を受け入れたため、移民の大量移入を招きました。これは、仕事と福祉を奪うという形で、競合する低所得層の生活を直撃しましたが、経営者側に都合が良かっただけでなく、生産・消費ともに向上するため、マクロ的にもプラスなので、問題点は放置されました。こうして、保守党支持層の下層を固めていたプア・ホワイトの生活が破綻に直面し、右派離脱派という受け皿を通じて左右の対立軸を越えた離脱問題という一点に集中することで、「下層の反乱」が現実のものとなったのでした。



文・土屋彰久(政治学)