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反知性主義【はんちせいしゅぎ】

★大衆を政治に動員していく上で、求心力を発揮した


  反知性主義は、一般的には、知性・教養を軽んじ、知識人を敵視する精神的な傾向性を意味します。こうした傾向を強く持つ人々は、自らの安易な思い込みに固執し、それと矛盾する見解や情報について、理解した上で反論するのではなく、頭から否定、拒絶するという、狭量で硬直した態度を示します。


 反知性主義が、イデオロギーとして政治的に重要な意味を持つようになったのは、アメリカが始まりでした。


 アメリカでは、世界に先駆けて「知性と良識の政治」を口実にした制限選挙制の克服が進み、その過程で、普通選挙制の下で新たに有権者となった一般大衆を政治運動に動員していく上で、「アンチ・インテレクチュアリズム」が求心力を発揮するようになりました(インテレクチュアリズムとは、合理的・理論的なものを重んじる立場)。反知性主義という用語も、元々はここからの訳語の一つで、他にも反教養主義、反知識人主義といった訳があります。


 普通選挙制の下では、賢者も愚者も同じ一票となりますので、少ない知識人を手間暇かけて説得するより、一般大衆を心理操作でまとめて動かす方が効率的です。そして、政治と並んで社会、経済の面でも進んだ大衆化は、マス・コミュニケーション、メディアの発達を促し、支配勢力に大衆動員のツールを与えることになりました。そして、その使用方法に当たる心理学も、操作される大衆の知らないところで大きな進歩を遂げました。


 反知性主義は、アメリカでの発生当初はまだ、少数の特権階級が独占する支配構造に対する反発という意味合いも持っていました。しかし、大衆操作に長けた勢力が政治過程で勝利を重ね、操作技術が洗練されてくると、支配層のコントロールは大衆の思考にまで及ぶようになり、支配構造はむしろ拡大・強化されるようになりました。


 反知性主義への誘導は、基本的には迎合的な刷り込みによって行われます。具体的には、「それでいいんだ」という、大衆の意識に対する強力な現状肯定のメッセージを縦糸に、時々の様々な政策的テーマが織り込まれ、思い込みのコアとなる情報がメディアを通じて繰り返し発散されていきます。ここでは、短絡的、感情的な反応が奨励され、そうした思考回路に合わせて一定の方向に導くべく巧妙に操作された情報が提供されていくことで、支配層に都合のいい思い込みが形成されていきます。


 一方で、理性的、客観的、多角的思考の奨励といった、「知識人が上から目線で垂れる良識ぶったご託宣」は、小中高と「その他大勢」であり続けた大衆にとって、むしろ優等生的言辞として反発の対象となります。そして、そうした反発も積極的に肯定されます。こうして、「その他大勢」から脱して独り立ちするかわりに、「その他大勢」に安住する道に誘導された人々が、現代の反知性主義の政治にエネルギーを供給しています。

文・土屋彰久(政治学)